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その瞬間は「タモリのジャングルTV」でバラエティタレント連中のピザ作りを観ていた。そこにニュース速報のテロップが入った。マンハッタンの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだのだと言う。その直後に更にもう一機が突っ込んだと言うテロップ。この時点で「テロだ」と直感。
次の瞬間、ジャングルTVの画面が唐突に筑紫哲也のアップに切り替わった。後は同時多発テロの特別報道番組一色になった。
これほど唐突で、かつ内容がショッキングな映像を観たのは小学校の時の日米最初の衛星放送がケネディ暗殺報道に切り替わった時と、社会党浅沼委員長刺殺事件をたまたまNHKの生放送で観た時以来である。
更に追い打ちをかけるように国防省ビル=ペンタゴンにも飛行機が突っ込み猛烈な煙が出ている画面が映し出される。
正に画面に釘付けになっていたら世界貿易センタービル(110階建てツインビル。高さ420m。アメリカで二番目、世界で三番目に高いビル。1977年完成)の一方が突如崩落する映像。この時点では適切なコメントがなされないので何が起きているかがよく分からない。そして更にもう一棟が崩落。まるでアメリカでよく行われるダイナマイトを使った意図的なビル破壊の現場報道を観ているような気分になる。あるいは「映画:インディペンデンスデー」のエイリアンの母船によるクライスラービル破壊シーンとまるで同じとも言える。
とにかくそのまま朝までザッピング(米俗語=テレビのチャネルをガチャガチャと切り替えること)しながら各局の混乱した報道を観る。
昼前に起き出してくると相変わらず全ての地上波が特別報道番組体制。そして驚いたことに崩落した世界貿易センタービルに隣接する47階建てのビル(これだって霞ヶ関ビル=地上36階建て=より遙かに高い)が崩落。低層階が類焼しているという報道はあったが、このビルは航空機の直接の攻撃は受けていない。つまり世界貿易センタービルの崩落による何らかの影響と火災だけで崩落したことになる。
過渡的な報道ではニューヨークの犠牲者は数千人から1万人規模、ペンタゴンが100人ないし800人以上。
とにかくアメリカ建国以来初の本土への攻撃であり、人類の歴史上最大規模のテロであることは間違いない。 |
「映画:ダイハード3」の広告コピーは「ニューヨークは戦場になった」であった。マンハッタンで実際に起きたことは荒唐無稽なはずのハリウッド映画を越えた。
「小説:レッドオクトーバーを追え」でテクノ・スリラーと言う分野を確立したトム・クランシーのジャック・ライアン・シリーズの「日米開戦」の一番最後の場面で、JALのベテランパイロットが「(小説中の)第二次太平洋戦争」のために死亡した息子の弔い合戦でジャンボジェットでアメリカ国会議事堂に「カミカゼ・アタック」を行う。この結果、アメリカ大統領を含む閣僚の全員が死亡し、一時的に副大統領になっていたジャック・ライアンが大統領となり、その「瀕死状態のアメリカ合衆国」に対して更に行われる様々な攻撃をライアンがどう立て直すのかが次作である「合衆国崩壊」のテーマとなる。
しかしである。小説中のカミカゼ・アタックは機長一人の行動であり、乗客は搭乗していない(と言う設定)。今回のように旅客機をハイジャックして、そのまま乗客乗員ごとビルに突っ込むわけではないし、攻撃は一回だけである。現実に起きたのは三回の波状攻撃である。ペンシルバニアに墜落したものを加えれば本来は4波の時差波状攻撃だったのである。事実は小説をも遙かに越えている。 |
犯人は誰か。目的は何か。今後の更なるテロはあるのか。
これらについては各局の報道番組に任せた方が賢明だろう。全く前例のない攻撃のために「専門家連中」すらもまともなコメントが出せない状況なのだから、我々素人には余計に訳が判らない。それよりも素人なりの疑問が沢山ある。そう言う疑問の中に様々な「答え」が隠されているかも知れない。 |
- 最初の激突が見事に撮影されている。撮影位置が完璧。だから構図が完璧。撮影技術も完璧。画質も報道品質。偶然の撮影にしては出来すぎた話である。予め激突場所と時間を知っていたから撮影できたと考えた方が自然ではないか??
- 高層ビルがあんなに簡単に完全に崩落するとは知らなかった。
- 1機目も2機目もまるで豆腐の中に模型を押し込むように世界貿易センタービルの中に吸い込まれるように突入し爆発炎上した。全体構造的な強度を重視して設計されたであろうハイテク超高層ビルは、この種の攻撃(ダメージ)に対しては非常に弱いことが証明されたと言えるだろう。
- 結果的に三つの超高層ビルが完全に崩落するという結果はテロリスト側も予想していなかったのではないか?
- 逆に言えば、このことはテロリストにとって極めて有利な情報を与えたことになるのではないだろうか?
- ハイジャックした民間航空機をミサイル代わりにして攻撃するという方法論は防御する側からすると最悪である。
- 相手が軍用機なら危機的限界点を越した時点で容赦なく撃墜すればよい。この場合、判断を躊躇する材料はない。
- ところが相手がハイジャックされた民間機の場合は撃墜の判断を躊躇させる要件だらけである。今回の場合、もしも事前に突入機を捕捉していたとしても、直ちにアメリカ空軍がこれをミサイルなどで撃墜できたという保証はない。
- しかもハイジャック機の飛行方向は大都市であるから洋上で撃墜しなければ撃墜後の二次被害は避けられない。
- 事前捕捉しても最初に出来ることは警告である。警告しているうちに都市部に侵入されてしまえば、その時点で既に撃墜は出来無いと言うことである。撃墜したらニューヨークやワシントンDCのどこに墜落するかが分からないからである。
- 国防省は突然の攻撃に対する対空防衛システムは持っていなかったようである。ニューヨーク市も同様であろう。
- そもそも民間航空機をハイジャックしてカミカゼ・アタックをするという方法論に完璧に対処しようとするならば、全ての民間航空機は一切の利便性を捨てて人口密集地と隔絶した空港と空路を設定運用し、これに逸脱した航空機は警告を受け、それに従わない場合は問答無用で直ちに撃墜すると言うような現実には実行不可能な対策しかない。
- 今回のテロはそう言う意味からも、近代国家に対する画期的な攻撃方法である。
- アメリカは元々は「Nation on the Wheels」と呼ばれ、自動車がないと成り立たない国であるが、それと同時に(それ以上に)今や広大な国土と言う地理的条件から航空機による交通が欠かせない。いわば「Nation on the Wings」な国家である。
- 今回のテロの結果、ただいま現在は全ての民間航空機の離陸=飛行が禁止されているわけだが、これはつまり国家の最も重要な交通インフラが全く稼働していないことを意味する。日本で言えば新幹線をはじめとする鉄道網が全く動かない状態に等しい。これでは国家は機能しない。
- テロにおけるもう一つの画期的な方法、つまり日本でオウム真理教が実行した地下鉄サリン事件の方法論、つまり人口が密集した大都市での生物化学兵器の使用と言う暴挙を併用すれば、ニューヨークもロンドンもパリも東京も、いずれもひとたまりもなく破壊蹂躙され混乱しパニックとなり、いよいよその機能を停止する。
- このような、フィクションの世界でも(あり得ないだろうと言う意識から)余り使われなかった手法に対するタブーが無くなれば、近代の民主主義的国家の大都市と言う存在は最早成立し得ない。
- 考えても見てほしい。一種のミニ都市と言える東京ディズニーランドで大規模なテロが行われた場合を。これを事前に防ぐことは実効性のある対策が運用上不可能なのだから無理なのである。つまり攻撃する側がその気になれば、大都市はいつでも破壊できるのだ。
- 近代の先進国家の大都市は城塞都市ではないのである。悪意の第三者がいつでも攻撃してくる可能性があると言うことは都市インフラの前提になっていない。
- わかりやすく言えば平和(平時)が前提なのである。
- 逆に常時準戦時国家体制の北朝鮮やイラクの都市なら、ビルの屋上には対空兵器が常備されているだろう。北朝鮮と隣接する韓国の首都ソウルにもその可能性はある。しかし、これらは単なる例外である。
- 歴史的にアメリカ本土は直接の攻撃を受けたことがない。パールハーバー以来の奇襲攻撃という報道がなされていても、それとは本質的に異なる事件である。ハワイはアメリカ本土から遠く離れた島だったのである。
- 合理的発想が皆無だった大日本帝国陸軍をして、アメリカを占領屈服することは出来無いと考えていたのは歴史が証明している。それ程にアメリカ本土は広大であり、地政学的に太平洋と大西洋で守られており、隣接する強力な敵性国家を持たず、かつ世界最強最大の軍事抑止力を持っているからである。しかし、新しいテロ理論によって、こうした前提は全て崩れ去った。
- テロは実行主体が国家そのものではないのだから、直接的な報復は出来無い。テロ支援国家を特定できたとしても、テロそのものを消滅させることは出来無い。
- 何故ならテロは思想であり主義であり個人でありグループであるから特定の地域に限定されない。また、テロ支援国家は複数ある。
- 思想や主義は武力では抹殺できないし、テロ支援国家(と想定される対象)を全て攻撃屈服させることは、いかなアメリカの軍事力を持ってしても不可能である。イラク、シリア、アフガニスタン、イラン、リビア、北朝鮮それぞれに水爆を投下するわけには行かないのである。
- 「西側」の我々からすれば信じがたいが、今回の大惨事を知って驚喜乱舞し空に銃を乱射するパレスチナ人民の映像を目にすると、イスラエル建国以来の問題を強引に運用してきたアメリカ(及びイギリス)は、ついに強烈な報復を受けたとも言えるだろう。
- もっと言えば、これは21世紀におけるキリスト教とイスラム教(とユダヤ教)の宗教戦争なのかも知れない。
- そうだとすれば、いよいよ宗教音痴の我々日本人には全く理解できないこととなる。無責任なようだが本質を理解できないのだから、判りようがないのである。
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とにかく、今後の推移は予断を許さないものがある。いや、こう言う評論家的な書き方は適切ではない。今後の展開は極めて悲観的である。何故ならアメリカが報復行動に出るのは確実だし、テロがこれで終わるわけもないからだ。テロの対象がアメリカだけという保証も全くない。アメリカが報復行動を起こせば、テロは更にエスカレートするだろう。イスラエルとパレスチナの問題にも当然飛び火するだろう。ビルだけではなく株価も崩壊しており、これで日本の銀行の決算も崩壊だろう。つまり日本経済もますます崩壊崩落だろう。
もっと恐ろしいことには、世界中のテロ組織や暴力的国家は新しい攻撃ノウ・ハウを見てしまった。湾岸戦争は人類の歴史上初めて、本物の戦争を世界中の茶の間のテレビでリアルタイムに傍観することが可能になった戦争だった。そして今回、史上最大規模のテロを同じように映像情報として世界中にばらまいた。
カミカゼ・アタックを厭わない操縦技術のあるテロリストが確保できれば、世界中どこにでもトマホーク・ミサイルより正確で、しかも遙かに破壊力が大きく、かつ防衛側が撃墜を躊躇する人質満載の民間旅客機を空から突入させることが出来るのである。
21世紀はとんでもない世紀となりそうである。 |
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