その二輪が何故に売れないのか?
これは多分、経済成長と関係があるのだと思う。終戦後の焼け跡の中で自転車にエンジンを付けた「バタバタ(原付の元祖)」が作られ、やがてそれがスーパーカブに発展して今日のホンダの基礎を築いた(ちなみにスーパーカブの累計生産台数は5000万台を遙かに超える)。そのホンダはしかし二輪専業ではなく、やがて四輪メーカーへと発展していく。それと同じように高度経済成長の波に乗って日本が豊かになるに従ってマイカーブームが起き、若者もスカGなどにあこがれるようになっていったわけであるから、戦前の日本には全く存在しなかった概念であるモータリゼーションによって新しいライフスタイルが生まれ、それが例えば湘南への彼女とのドライブなんて言うYuming的世界を創り上げていったのだが、湘南まで彼女とバイクでツーリングと言うのは結局はそれほど一般的な世界じゃなかったと言うことだろう。
もちろん国が豊かになればゆとりが生まれるから四輪の他に二輪も所有すると言う傾向が一時期はあった。それが恐らく1982年頃なのだろう。また、その頃はホンダだけで一年間に二輪だけで42機種の新車を投入すると言う時代でもあった。たまたま筆者はその2年前にアルバイトをしていた会社でホンダの用品開発部と仕事をして、全機種ベタ付けのTシャツ40数万枚の注文を取ったりした。それだけ二輪に元気があった時代だったのだ。
しかしそれも今は昔の物語である。
だが元々、成熟した社会では二輪はスーパーカブのような業務用途と自転車代わりのスクーターのようなシティコミュータ的存在を別とすれば趣味の乗り物であるはずだ。それはアメリカにおけるハーレー・ダビッドソンを考えれば分かる。特別な目的や意志が働かない限りハーレーで通勤したりディナーパーティに行くアメリカ人は居ない。ハーレーに乗るのは、そのことがライフスタイルになっている人達か、はたまた休日の気分転換であるはずである。
全く同じ事は国産の400ccや750ccにも言えるはずである。少なくとも普通の感覚なら子供が生まれた夫婦は二輪しかなければチャイルドシートをきちんと取り付けられる四輪車を買うはずだし、そしていつしか二輪車の使用頻度が減り、それを手放すことになるだろう。逆に言えば、欧米のようにモータリゼーションの歴史が100年間ちゃんと連続している先進成熟国の場合には、過去に異常な二輪車ブームは起きていないはずであり、二輪と四輪の棲み分けは自然に成されているはずである。
ところが日本のように異常な経済成長と急激な民度向上を達成した国の場合にはすべての点でバランスが悪い。ゆえに10年前のEUNOS ROADSTERブームみたいなことも起きる。欧米には昔からオープンカーというカテゴリーがあったのだが、日本ではそれがいきなり現出するから変なことになるのである。 |